我が家では1歳の娘がよく保育園で風邪をもらってきます。
そして親がそのうち調子悪くなって感染することがよく起きました。
子どもからの感染防止は難しいですが、家庭でできる除菌について、調べましたのでご参考にしてください。
今回はモノが汚れた場合の消毒方法を示します。
基本の流れ
汚れた面や汚物をまずは洗剤などで洗う必要があります。
その後に消毒薬で拭き取る流れになります。
- 目に見える汚れ(有機物)がある場合は、
洗剤や洗浄剤で「洗浄 → すすぎ → 乾燥」してから消毒剤を使用する。 - 十分に薬液を染み込ませたワイパー・不織布で
「同一方向に一回拭き」(往復させない)する。 - 薬液が表面に最低でも30 秒(できれば1分)以上“濡れた状態”で残る量を使用する。
使う消毒薬は敵によって使い分ける
アルコールが除菌に効くことはよく言われてます。
しかしアルコールが効かない敵(ウイルス・細菌)がいるので、それをまとめてみました。
病原体 | 特徴 | アルコール (代表:エタノール70~80 vol%) | 次亜塩素酸ナトリウム |
---|---|---|---|
インフルエンザウイルス、RSウイルス、コロナウイルス(SARS-CoV-2 含む) | エンベロープ ウイルス | ◎ 60–80 vol%(手指用=60–95 vol%が世界標準) | ○ 0.05–0.1 %(500–1000 ppm) |
アデノウイルス | 非エンベロープ | △ 80 vol%以上・1分以上で部分的 | ◎ 0.1 %(1000 ppm) |
ロタウイルス | 非エンベロープ | △ 70–80 vol%で約1分必要 | ◎ 0.05–0.1 %(500–1000 ppm) |
ノロウイルス(ノーウォーク様;カリシウイルス) | 非エンベロープ | ×~△ 80 vol%でも十分でない。加熱または塩素系推奨 | ◎ 0.1–0.2 %(1000–2000 ppm)※5分以上 |
ヒトパピローマウイルス (HPV) | 非エンベロープ | × アルコール不活化困難 | ◎ ≥0.1 %(1000 ppm)+10分 |
単純ヘルペス、HIV、HBV, HCV 等 | エンベロープ | ◎ 60–80 vol% | ◎ 0.05–0.1 % |
黄色ブドウ球菌 (MRSA を含む) | グラム陽性菌 | ◎ 70 vol% | ◎ 0.05 %(500 ppm) |
大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター | グラム陰性菌 | ◎ 70 vol% | ◎ 0.05 % |
緑膿菌(P. aeruginosa) | 耐性傾向 | ◎ 70 vol% | ◎ 0.05–0.1 % |
結核菌 (M. tuberculosis) | 抗酸菌(脂質豊富) | ○ 70–80 vol%で1分以上 | ○ 0.05–0.1 % ※有機物少ない条件 |
クロストリジオイデス・ディフィシル 芽胞 | 芽胞形成 | × 無効 | ○ 0.5 %(5000 ppm)+≥10 分 |
バチルス属芽胞 | 芽胞形成 | × | ○ 0.5 %(5000 ppm)+≥10 分 |
※「有効」欄:◎ 高い殺滅効果/○ 十分な殺滅効果/△ 効果はあるが制限あり/× 無効
※ “ppm” は有効塩素濃度(1000 ppm=0.1%)
※ 接触(湿潤)時間は特記なければ ≥30 秒、ノロウイルス・芽胞菌は ≥1~10 分を想定。
消毒薬の濃度
アルコールは60%~80%の濃度が推奨
アルコール濃度は60%~80%が最も効きます。
意外ですが、100%に近いアルコールは消毒能力が低いのです。
例えば無水エタノールを薄めて使う場合は上記の濃度範囲になるようにしましょう。
一方、60%を下回ってもいけません。WHO、米国CDCとも60 %以上を推奨しています。
次亜塩素酸ナトリウム1,000 ppmの作り方
次亜塩素酸ナトリウムはいわゆる「キッチンハイター(花王)」や「キッチンブリーチ」の名前で売られている塩素系漂白剤に入ってます。
これを薄めることで1,000 ppmを作っていきます。
塩素系漂白剤の濃度の考察(上記まとめの考え方)
塩素系漂白剤はメーカー毎に異なりますが、概ね5~6%の次亜塩素酸ナトリウム濃度で作られているたいです。
ところが注意点がありまして、次亜塩素酸ナトリウムは製造から時間が経っていくと徐々に濃度が低下していきます。
例えば花王のキッチンハイターは濃度低下を考慮した使用量を提案してます。
https://www.kao.com/jp/qa/detail/18916/
他にもキッチンブリーチを作ってるミツエイでも同じように濃度についての情報があります。
https://mitsuei.jp/new/topics271120
これらの情報を基に、横軸に製造からの月数、縦軸に次亜塩素酸ナトリウムの濃度をまとめたグラフを作ってみました。

これを見ると概ね、次亜塩素酸ナトリウムの原液濃度は、製造から半年で4.5%程度、1年で3.5%~4%程度まで下がることがわかります。
水1Lにこれらの原液濃度の次亜塩素酸ナトリウムを加えて1,000 ppmを作りたいときの原液の入れる量を一覧表にすると下表になります。
原液濃度 | 原液mL | 水 |
2% | 52.6 | 1L |
2.5% | 41.7 | |
3% | 34.5 | |
3.5% | 29.4 | |
4% | 25.6 | |
4.5% | 22.7 | |
5% | 20.4 | |
5.5% | 18.5 | |
6.% | 16.9 |
塩素系漂白剤を買って1.5年以内に使い切ると考えると最悪でも3%程度の原液になると考えられますので、そうすると1Lの水に35mL程度入れれば、1000 ppmは確保できると考えられます。
洗剤って効果あるの?
コロナが流行ったときに、洗剤が効くという話もありました。それについても調べて見ました。
界面活性剤の効果
家庭用中性洗剤(台所用洗剤・住宅用多目的洗剤など)は陰イオン界面活性剤を 15〜35 wt% 含みます。
日常清掃ではこれを 約0.1〜0.3 wt%(=原液を 300〜100 倍希釈、例:5 mL/1 L水)に薄めて雑巾や不織布に浸し、表面を「洗浄拭き」しています。
“洗浄”=物理的除去
- 汚れ(有機物)を界面活性剤が界面に吸着して乳化・分散
→ 拭き取りとともに病原体を数〜数桁オーダー減らす。 - 十分量と摩擦があれば、病原体の大半は“取り除かれる”だけで“化学的に殺滅”されるわけではない。
“化学的不活化”=脂質膜・細胞膜の破壊
- 陰イオン界面活性剤は脂質二重膜を溶解する力があり、
エンベロープウイルスや一般細菌には殺滅効果を示す。 - 非エンベロープウイルス・芽胞には膜がない/厚い壁があるため不活化効果は限定的。
- 有効濃度は 0.05〜0.2 wt% 付近(CDC, WHO, 国環協ガイドラインなど)とされ、1 分以上の湿潤が目安。
どの病原体に効くのか?
家庭用中性洗剤(0.1〜0.3 wt%)で拭き取りしたときの病原体別の効果の目安を下表にまとめました。
◎:十分な化学的不活化+物理的除去
○:ある程度の化学的不活化+物理的除去
△:主に物理的除去のみ(化学的不活化は弱い)
×:ほぼ無効(除去にも特殊処理が必要)
病原体の例 | 主な性質 | 期待できる効果(0.1〜0.3 wt%界面活性剤) |
---|---|---|
SARS-CoV-2, インフルエンザ, RS などエンベロープウイルス | 脂質エンベロープ | ◎ 1 分以内に膜溶解。WHO 0.1%洗剤推奨 |
HIV, HBV, HCV, ヘルペス | 同上 | ◎ |
黄色ブドウ球菌 (MRSA), レンサ球菌 | G(+)細菌(膜+厚いペプチドグリカン) | ○(数 log 減) *十分な接触時間必要 |
大腸菌, 緑膿菌, サルモネラ | G(−)細菌(外膜) | ○ |
結核菌 (M. tuberculosis) | 抗酸菌(ミコール酸豊富) | △ 界面活性剤単独では残存する可 |
ロタ、アデノ、ノロウイルス(非エンベロープ) | カプシド蛋白のみ | △ 主として物理的除去。殺滅効果はほぼなし |
クロストリジオイデス・ディフィシル芽胞、バチルス芽胞 | 芽胞 | × 界面活性剤では不活化不可 |
真菌(カンジダ、アスペルギルス) | 細胞膜+壁 | ○ 広い報告で 1~2 log 減 |
ヒトパピローマウイルス (HPV) | 非エンベロープ強耐性 | ×〜△ |
脂質エンベロープウイルスには効果的ですが、それ以外だと効かないこともあります。
アデノ・ロタ・ノロウイルスには注意
以上の情報から、次のことがわかります。
私も娘からアデノウイルスをもらったことがあります。
おそらく風邪=アルコールが効くと思って、除菌スプレーで拭き拭きしてました。
この情報があればさっさと次亜塩素酸ナトリウムで消毒してました。
他にも昔ノロウイルスにかかったとき、看病してくれた母親が感染しました。
これもノロウイルスの処理で次亜塩素酸ナトリウムを使ってなかったのが原因でした。
家庭でできる消毒方法を実行しましょう
正しく消毒できていれば、家庭内感染を未然に防げる可能性が上がります。
もちろんマスクや手洗い・うがいも効果があります。
これらの知識は台所周りの消毒にも応用が効きますので、是非消毒の知識の参考にしていただけたらと思います。
※参考にした主要ガイドライン・文献
・世界保健機関(WHO)Guidelines on Hand Hygiene in Health Care, 2009
・米国 CDC Guideline for Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities, 2019
・環境省/厚労省「新型コロナウイルス消毒・除菌方法」(2020)
・国立感染症研究所 感染対策チーム「ノロウイルス感染対策マニュアル」(2022)
・日本環境感染学会「消毒と殺菌ガイドライン 2020」